夕闇が迫る中、里奈は一人で途方に暮れていた。
夫・誠司からの電話を切った後、目の前にある巨大な整理タンスを見上げる。女性一人の力ではビクともしない。
その時、開け放していた玄関から「お手伝いしましょうか?」と、低く響く声が聞こえた。
隣の302号室に挨拶したばかりの陣内だった。彼は挨拶の時よりも少しラフなTシャツ姿で、そこから覗く腕の筋肉は、誠司のそれとは比較にならないほど逞しかった。
断り切れず彼を招き入れると、狭いリビングに男の熱気が充満した。
タンスを動かす際、二人の身体が必然的に密着する。陣内の厚い胸板が里奈の背中に触れ、彼の荒い吐息が耳元をかすめた。
「えっ、あ、すみません……暑くて」
里奈のブラウスは汗で肌に張り付き、下着のレースがうっすらと浮き出ていた。陣内の視線が、その曲線に粘りつくように注がれる。里奈の心臓が、恐怖とは違う高鳴りを始めた。
陣内の手が、不意に里奈の腰へと回された。
驚いて振り向こうとしたが、彼の強い力で抱きすくめられる。夫以外の男に触れられる羞恥心。しかし、段ボールの壁に囲まれた密室で、自分を女として強く求める圧倒的な「雄」の力に対し、里奈の膝はがくがくと震えた。
彼の唇が、里奈の項を這い、耳朶を甘噛みする。
その言葉が、里奈の心の奥底に隠していた渇きを突き刺した。
抗うはずの指先が、いつの間にか彼の逞しい腕にしがみついている。
彼は里奈を床の段ボールの上に押し倒した。カサカサという乾いた音が、静かな部屋に異様に響く。
涙を浮かべながら拒む里奈の唇を、陣内は荒々しいキスで塞いだ。彼の舌が侵入し、口内の蜜を執拗に貪る。
彼の指先が、まだタグの付いたままの新しいソファの陰で、里奈の秘められた場所へと滑り込む。
誠司とのセックスでは感じたことのない、強引で計算された愛撫。羞恥心で身体を強張らせながらも、里奈の身体は裏腹に熱い雫を溢れさせ、陣内の指を欲するように締め付けた。
欲望を剥き出しにした陣内に対し、里奈は自ら服を脱ぎ捨てるほどの情熱を抱き始めていた。
自分でも信じられない言葉が口をついて出る。
夫への裏切り、新居という神聖な場所での情事。そのあまりに深い背徳感が、里奈の感度を限界まで引き上げていた。
陣内の熱い塊が里奈の内に侵入した瞬間、彼女の意識は白く塗りつぶされた。
激しく揺さぶられるたび、窓の外の街灯が部屋を明滅させる。
誠司が選んだこの部屋で、誠司以外の男に突き上げられ、快楽の頂点へと導かれる。里奈は、逃げられない「隣人」という罠に、自ら深く深く沈んでいった。
嵐のような時間が過ぎ、陣内は「また困ったことがあったら、いつでも呼んで」と、耳元に囁きを残して去っていった。
一人残された里奈は、乱れた髪と火照った身体を抱え、急いでシャワーを浴びた。
深夜。帰宅した誠司は、部屋が片付いているのを見て「頑張ったんだね」と里奈を抱きしめた。
夫の胸に顔を埋めながら、里奈は罪悪感で胸が締め付けられるのを感じる。
しかし同時に、壁一枚隔てた隣にいる「あの男」の指先の感触を思い出し、夫の腕の中で再び身体を熱くさせてしまう自分に、恐怖と抗えない悦びを感じていた。
秘密の関係は、まだ始まったばかりだった。